理想
南を向いていれば日当たり良好、風が通り水はけもよし、占くから住みやすさが知られていた。
自然の気配を残す傾斜面にモダン住宅が点在する景観は郊外の理想として夢見られていたにちがいなく、たとえば松本竣介が1930年代にまさにその幻景を何点もの油彩に描いている。
その場所は東京とは限らない。
郊外というタイトルの作品は明らかに写実というより心象の構成だが、それだけ誰にもアピールする。
渋谷から南西方向に延びる東急田園都市線の沿線各駅をつなぐ一帯の街づくりを都市計画、建築、構造そのほか各領域の専門家が知恵を出しあってまとめたのが多摩田園都市構想で、まだ家も街もなく、どこまでも丘陵が続くなかにいくつかの生活環境拠点をセットする。
地名
長い歳月住むためには、場所の記億とそこからたえず更新されるべき生活とは複雑な関係になるのではないか。
アイヨーやボフィルの特異な発想はひとつのヒントである。
低層接地型のシステム、東京は一区内だけでも山、台、丘の地名がめだつ。
地形の高さというより高級住宅地としての格の高さで知られる御殿山や白金台、麻布台、さらには自由が丘や松が丘。